追いかけ鬼 




天高くすっきりと涼やかに晴れた秋空の下

恋次と私は二人で広い草原を勢いよく走って

ぎゃぁぎょあと言い合いをしながら

バカみたいに笑って「追いかけ鬼」をしていた




先程まで私たちはこの十三番隊のそばの丘で弁当を食べていた

その時に会話の流れで戌吊でよく遊んだ「追いかけ鬼」の話をした

久しぶりに恋次とゆっくり会えて嬉しかった私はたぶんとても浮かれて
いたのだろう

「あの頃、誰も私を捕まえられる者はいなかった。」

「んなこたぁねぇだろ。
 俺は捕まえたぞ。」

「私にそんな記憶はないが。
 ふふふ・・・・、
 未だに貴様に私が捕まえられるとは思えぬ、変眉副隊長殿www」

と、子供の頃同様にに恋次を挑発して先んじて走り出せば

「ばっ、てめっ! 
 なに急に走り出してやがる!!」

こんな幼い悪ふざけにも恋次はノって付き合っくれる



ただの戯れにもムキになってしまうのはお互い仕様のない性分で

だけどそれが楽しくて面白くて

なにが可笑しいのかわからないほど笑いながら逃げた

歩幅の違いからすぐに追いつかれて

「ばっか野郎、そんなんで逃げてるつもりかよ!」

って嗤う恋次の大きな手を寸ででひらりと左へ右へと躱して

時にひょこりと小さく屈んだり跳んで逃げた

「ははは・・・・、それで子供の頃はどのように捕まえていたというのだ?!」

「てめっ、ちくしょっ!
 避(よ)けんな、馬鹿!!」

などなど罵声を吐く恋次も顔は思いっきり笑っているのが嬉しくて

(副隊長達のすることではないだろうに)って頭のどこかで冷静な私が諌めているのに

一体私たちはいくつなのかと呆れるほど大きな声で笑い合って戯れていた



結末は最初から見えていたのだと思う

今はあの頃のように他の仲間がいるわけではないのだ

私の息が上がった頃合を見計らって恋次が

その大きな手で広い胸の中に私を包むように捕えた

そうして 広がる草地の上を子犬がじゃれ合うように転がって

止まったところで息を切らしながらまた笑い合った

まるで子供の頃に戻ったように――



身近に聞こえる互いの早い鼓動と荒く乱れた呼吸とは裏腹に

仰向けに見上げた青い空はとても穏やかだった

子供の頃から変わってはいないはずなのに

安定した生活と心の安息を見つけた今のほうが眩しいほど綺麗に見える

などと感慨に耽っていたら

いきなり視界が恋次の陰で塞がれて

驚く間もなく口吻られた



あまりに想定外な恋次の行動に感情は激しく混乱、動揺して

「子供の頃はこんなことをしなかった!!」

恥ずかしさから逆ギレたように声を上げれば

「もう子供じゃねぇし」

と軽く否されてまた口吻られてしまった






Nov.09〜Dec.20.2012



  後書き