酔っ払い
「れーんじ♪
恋次恋次、恋次?♪」
何度も俺を呼び続けるルキアの声をわざと無視した。
返事をしたら、負けだ!
「恋次っ!!」
最後は怒鳴りつけるように呼ばれた。
――ったく、本当にどうしようもねぇ・・・・orz
ため息をこぼして白ばっくれる事を諦める。
「んだよっ!?」
「聞こえているなら、さっさと返事をせぬか?!」
ぶっきら棒に応えれば、ルキアからは咎める言葉が投げ返された。
けれど言葉とは裏腹にその表情は本当に楽しそうで・・・
ひどく扇情的に映る。
例によって乱菊さん達に良い様に飲まされて酔って少しぐったりと
してきたルキアを宴席から少し離れた渡り廊下に酔を醒まさせるために
連れ出した。
今晩はルキアが副隊長に就任したお祝いという名目の飲み会だった。
副隊長格主催のため副隊長全員と祭りごと好きな一角さん達、十三番隊の
3席の二人、飲み好きの京楽隊長もいつの間にかちゃっかり参加していた。
そのため、いつものように途中で連れて帰るわけにはいかなかった。
総隊長から<十三番隊・副隊長の任>を内示されてからずっとルキアはずっと
自分なんかが拝命しても良いのだろうかと思い悩んでいた。
俺はこのルキアの「自分なんかが」って考え方は大嫌いだった。
だから何度も言葉を尽くしてお前はよくやっているとそれに相応の事を
きちんとしてきたと伝えたが、離れていた40年の間に培われちまったもの
そう簡単にルキアの意識を変えられなかった。
少しずつ解していくより仕方ない。
俺以外にも浮竹隊長をはじめ十三番隊の周りの皆からも励まされて、最後に
朽木隊長から手甲とともに何かしら祝いの言葉を言われたらしい。
そこでやっと過去の十三番隊の副隊長との命のやり取りに対するこだわりや
自身の実力への不安や迷いから吹っ切れたらしい。
照れ臭そうに「副隊長を謹んで拝命する事にした。」とすっきりした表情で
ルキアにそう報告されたのはつい昨日の話。
だから、俺は終始明るい表情で周りから祝いの言葉や激励とともにいつも
以上に酒の盃を重ねていたルキアを止められなかった。
――飲めねぇくせに・・・
俺たちが避難してきた渡り廊下は宴席の声が聞き分けられる程しか離れて
いないが人通りがほとんどなく抜ける風が酒で火照る身体には心地良かった。
、さっきまでは袷を掴んで喧嘩腰に名前を呼んていたルキアも返事をした事に
満足したのか、今は片膝立てて柱に寄りかかって座る俺の隣に寄り添い足を
伸ばして座り身を完全に俺に預けていた。
「へいへい、悪ぅございました。」
急に静かになったルキアに大丈夫なのかと隣下に視線を送れば、袷から覗く
鎖骨や紅潮した頬ととろんと潤んだ瞳、死覇装越しに感じる体温に邪な
誘惑に駆られそうになって慌てて視線を遠く逸らした。
――ここでこの程度の挑発に乗ったら負けだ。
俺の主義として酔っ払いは相手にしない。
過去、とんでもねぇ酔っぱらいの先輩、同輩、後輩たちから嫌ってほど
学ばされてきた事だ。
いや、酔ったルキアには手を出さないと決めている。
弱みに漬け込むなんて男として最低だ。
いや、これは単に俺の矜持の問題なのだ。
「れんじ、あのな・・・・」
呼ばれてまたルキアに視線を戻せば、「ふふふ・・・・」と楽しそうに
笑って言葉は続かなかった。
ただ名前を呼んだだけなのだろう、先程から既に何度となく繰り返された
酔っぱらいの戯言だ。
――だから油断した。
「今・・・すごく幸せ・・・。
恋次のおかげだな、本当にありがとう・・・・」
「!? っル、ルキアーー」
漏れた呟きに慌ててルキアの顔を見たが、寄りかかった肩口に顔を埋めて
その表情も真意も見せちゃもらえなかった。
「ばっか・・やろ・・・!」
そう呟いて細い肩に腕を回して胸に抱きしめた。
――俺は関係ねぇだろうーが
お前が今まで踏ん張ってきたから・・・
俺こそがお前に幸せにしてもらっている・・・とかとか
いろんな言葉が胸のうちに渦巻くが何一つ吐き出すことはできなかった。
憎まれ口ばかりのルキアはたまにこんなとんでもない発言をして俺の心を
大きくかき乱す。
だが、今度の爆弾発言の威力は過去最強
俺は子供の頃からの誓いを守れているか
あいつらに変わってルキアを護れているのだろうか
大きな戦いにルキアと駆り出される度に
ルキアになにかある度に己に自問し確認する。
俺はあいつを全然護れていないのではないかと―――
幸せを感じてくれていると笑顔で言ってくれるなら
少なくともルキアの幸せだけは護れているのだと
胸に抱きしめるルキアの温かさがじんわりと俺に伝わり広がっていくように
心までルキアの温かさで埋め尽くされた。
ーー離せなくなるだろうがっ!
いや、ぜってぇ離さねぇよ!!
タイトルを「告白9」から「酔っ払い」に変更しました。
あとがき