羨望:吉良イヅル  ・ 「でさ・・、阿散井くん。  その隊士が言うには突然体から触手を伸ばして攻撃して来て仲間が真っ二つに 引き裂かれたって報告だったんだんけど、実際にはその虚・・・」 「あ。 ぁあ、触手じゃなくて吐き出された液体が鎌鼬よろしく斬ったってんだろ?  ってか、悪りぃ、吉良。  続きは後で隊舎で聞かしてくれ!」 そう言いながら既に阿散井くんは右前方の人混みにの中に見つけた朽木さんに向かって 駆け出していた。 ――統学院の頃と変わらないなぁ・・・。 十三番隊副隊長・吉良イヅルは呆気にとられながらもそう呟いて苦笑した。 阿散井くんとルキアさんは距離をおかざる負えなくて酷く辛そうな時もあったけれど、 その関係を取り戻してからの阿散井くんはまた彼女を目にすると最優先で駆けていく。 ――話の途中だったんだけどな。 それは吉良の隊で既に退治された虚に関する報告で確かに緊急の話ではなかったけれど、 副隊長としてそれなりに大事な情報交換だったハズ。 それをあっさり後回しにして駆けて行ってしまった。 冷静に考えれば、腹をたてても良いほど失礼で無責任な行動だと思うのだけれど浮かんだのは 別の感情。 ――羨ましい・・・。 彼の全く変わらない 揺るぎない想いとその強さを心の底から羨ましいと思う。 これほどの強さがあれば、僕は尊敬する隊長を失わずに済んだのだろうか? あんなふうに最優先に想いを寄せていたら、大事な彼女が傷けずに守れたのだろうか? 今更だと頭を振って無駄な思考を止めた。 ――彼は彼。自分は自分。 背負ってきたモノも立ち向かうモノ 望むものも大事な者も違う 立場・・・いや、なにより元の性格も違うだろう。 阿散井君の立ち向かう先の難易度の高さに思わず苦笑が漏れる。 表向きは無関心を装っているが、実はかなり養女にした妹を溺愛している義兄 四大貴族・朽木家当主であり、直属の上司 あれは相当の難関だろう―― いや、そんな生易しいものではないかもね・・・ 関所なら条件をクリアすれば通してもらえるが、 立ち向かう難関は道すらない巨大で頑丈な壁だ。 今は『幼馴染み』の域を超えていないから気安く近づく事が許されているだけだと もっぱらの評判でかなり歩合の悪い賭けの対象にさえなっている。 なにより想う対象が鈍くどこまで恋次の想いに気づいているのか、かなりアヤシイ。 傍からどう見ても阿散井君の行動は真っ直ぐで露骨過ぎるほどだと思うのだけど―― 彼の決意を聞かされたのはいつだったろうか・・・ あぁ・・ 梅針という死神が蘇った騒乱の時だった 周りから見りゃどんなに格好悪く見えたって みっともなく足掻いているような無様な姿を晒したとしても・・・ 俺がどんな姿になったってずっとアイツの傍に居て護るって決めたんっスよ。 アイツが俺の前から消える恐怖に比べたら、 俺の詰まらねぇ矜持や意地、俺の身体だってなんでもねぇ! 彼女を梅針から庇って瀕死の重傷を負った阿散井くんは見舞いに行った僕と檜佐木先輩に そう言った 金具で固定され白い包帯にも全身を余すところなく巻かれて 深い傷からの血がまだところどころ滲んでいて病室のベッドの上に横たわる姿はとても 痛いたしかったのに 仰向けに寝たままの目の前にかざす握り込まれた拳は力強くて 晴れ晴れと明るい 吹っ切った表情で告げられた。 阿散井くんには絶対に言わないけれど、その決意を実行するために努力する彼の姿は とても格好いいと思っている。 自分には彼のように周りの目を気にしないで形振り構わず行動する事は出来ない だけど―― 負けないくらい強くありたい! 同じくらい強くなれるように努力してやる!! そう思っている。 きっと後で約束通り三番隊隊舎に「よぉ。」っていつもと同じ笑顔で現れるだろう 阿散井くんを思い浮かべながら せめて四番隊でまだ療養している雛森くんを訪ねようと思って近くの花屋へ足を向けた。 藍染騒乱の後の吉良イズル


あとがき Dec.20.2012〜Feb.02.2013