繋いだ手 ・ 「ありがとう・・・」 肩に置いた俺の手を戻して、走り去るルキア 触れられていた小さな手が俺の腕に冷たい感触を残す・・・・ 胸の中で感情が激しく鬩ぎ合う ――行かせていいのか? ――アイツの幸せのためだ!! ――離したくない・・・ ――邪魔をしてはダメだ! ――邪魔をするな・・・、邪魔をするな!! 呼吸が苦しかった 胸が締めつけられて焼けるように熱くて 腕を組んで自分の気持ちを抑えるのがいっぱいいっぱいで―― ふと、垣間見た俯いて歩くルキアの白い顔は 人形のように表情を失くしていて―― 輝きを失った瞳に俺はやっと己の間違いに気づく 馬鹿だ、俺は!?  あいつをどこに追いやった?! なぜ、アイツを自分自身で幸せにしてやろうとは思わなかった?! 取り戻そうと名を呼んで暗闇に浮かぶ白いルキアの手を掴もうと、己の手を伸ばす 闇に消え入り掴み損ねた!! そう思っていた小さな手を 気がつけば、しっかり掴んでいた いきなり俺の視界が明るく展開した・・・ 明るい陽光が差し込む中、ルキアが心配そうに俺を見下ろしていた。 昔と変わらない煌きを放つ深い紫色の瞳で・・・・ 「・・・ぁあ、起きたか、恋次?  苦しそうに魘(うな)されていたが、どこか痛むのか?」 「・・・・?  ルキア?  なんでここに・・?」 気付けば、自分の部屋の布団の上に寝ていた。 死覇装を着たルキアが布団の脇にちょこんと座り、俺はその手を掴んでいた。 「あぁ・・・、貴様が高熱で動けぬ故、隊を休んだと理吉殿に聞いたのでな。  こうしてわざわざ見舞いに来てやったという訳だ。  具合はどうだ、どこか苦しいか?  それよりそろそろ手を・・・うあっ・・・・」 ほっと安心したように微笑んだルキアに過去の夢とは違う「今」の現実感が欲しくて、 いきなり起き上がると同時にあの時と変わらない小さな手を引いて胸に抱き締めた。 回した腕が余るその華奢な肩と細腰に 首筋に埋めた顔に触れる柔らかな髪と鼻孔をくすぐるように甘いアイツの香りに ルキアをこの腕に取り戻した事を実感する・・・ 肩口で抗議するルキアの罵声すら嬉しいと思う。 「は、放せ、馬鹿恋次!  い、いきなり、何をする?!  放せと言っているのだぞ、もっと強く抱きしめる馬鹿がどこにいる!!  聞こえぬのか・・・」 「うるせぇ・・・、病人相手にがなるな、馬鹿!」 「馬鹿とはなんだ、たわけ!!  びょ、病人だというなら、大人しく寝ていろ!  いいから・・・はな・・せ・・・」 抱きしめた腕を緩めて、抗議するルキアを覗きこんだ。 真っ赤な顔で困惑したように怒っているその顔がまた嬉しい。 「? な、なんだ?  貴様、どこか苦しくて魘されたいたのではなかったのか!?  気持ち悪い顔で私を見るな、馬鹿!」 「てめぇ・・気持ち悪い顔ってなぁ、なんだよ?!」 「//////だ、だから、そのニヤけた顔が気持ち悪いと言っておるのだ!  と、とにかく放せ!!  粥を食わせてやらぬぞ!!」 「粥よりも今はてめえの方がいい♪  ひんやりして気持ちいい・・・vvv」 「//////だ、だから、それは貴様に熱があるからで・・・  いい加減にしろっ!」  =どかっ 「ぐぁっ!!」 「恋次! コレ以上は病人だとて容赦はせぬぞ!」 「・・・ってぇ〜〜!!  コレ以上も何も・・・別に何もしてねぇだろーが!  しかも、言うより先に殴ってんじゃねぇよ!」 ひじ鉄の入った腹をさすりながら恋次がそう言った。 返す台詞はいつもと大差なく乱暴で、その顔は痛みを堪えるしかめっ面なのに、 どこか嬉しそうで・・・・。 いつもとは違う楽しそうな反応の恋次にルキアは心配になる。 「れ、恋次?  もしや貴様は熱が高過ぎて馬鹿になってしまったのではないか・・・?  いや、貴様はもともと馬鹿だが・・・、たが、しかし・・その・・・大丈夫か?」 ぶつぶつと聞き捨てならない台詞を呟きながら、真顔で額に手を当てて熱を看るルキアに 初めて恋次がちょっと怒ったような反応をする。 「はぁっ、何言ってんだ!?  仕舞いにゃ、怒るぞ、ルキア!」 そう言いながらも恋次はルキアを腕に抱えて放さない。 ルキアの言葉に熱からくる己の身体の怠さをやっと自覚するが、自分の言葉に表情を コロコロと変えるルキアが嬉しくて堪らない・・・。 大きな瞳は力強く輝き、生き生きと煌いて恋次を映していた。 今俺だけを見上げていた・・・。 「何が、『仕舞いにゃ、怒るぞ』だ、たわけ?!  いい加減、放せ!!」 =どかっ!! 「ぐほぉっ!!」 容赦のない強い拳が顎に入って、恋次は布団に倒れ伏した。 それでもルキアを離さないでいる自分に本当に馬鹿かもしれないと思いながらも 恋次は心の中で快哉を叫んだ――


  そしてこの後、ルキアお手製のお粥を食べて、苦い薬を飲まされる そんな穏やかな日常であればいいーー ありがとうございました。 あとがき Aug.18〜