INSIDE OUT:Valentine's day 2011ver. ・ 六番隊の隊首室――ヴァレンタインの今日、今年も例によって朽木隊長は不在――  *注 隊長の分まで仕事に追われていた恋次はいきなり隊首室に飛び込んできたルキアに驚かされる 羽目になった。 いつものルキアなら、隊首室内に恋次が一人しか居ないと分っていても 扉の前でしばらく ためらった後、「失礼します、十三番隊、朽木ルキア、入ります。」と、わざわざ決まり通りに 挨拶してから、やっと入室してくる。 時として扉の前で逡巡するルキアに、焦れた恋次が席を立って迎えに行かずにいられない ほどに長く躊躇いを見せる。 そんなルキアが挨拶もなく執務室にいきなり飛び込んできたのだ、書類に集中していただけに 余計にびっくりする。 しかも2週間前に瀞霊廷の甘味処で乱菊さんと話をしたルキアから、ぼそりと「今年の ヴァレンタインのチョコは諦めてくれ・・・。」そう言われてもいた。 今年は尸魂界と現世でいろいろあったし、市丸ギンを失った乱菊さんがいつも以上の テンションで明るく振舞う姿に胸を打たれたルキアの様子からもヴァレンタインなどという 現世の浮かれた遊びに興じている場合ではないのだと自身でもそう思っていたので今日、 ルキアが訪ねてくるとは全く思っていなかったので驚くのは当然だった。 「Σ( ̄д ̄;) ル、ルキア?!」 「恋次、恋次、恋次♪」 俺の驚く姿がよほど嬉しかったのか――執務机の前に立って名前を連呼する、ルキアの顔は 滅多に拝めないような極上の笑顔で――嬉しくて仕方がないという感情を身体一杯に あふれさせている。 一瞬、なにか裏があるのではないかと訝しんでしまう程、いつにない機嫌の良さだ。 そんな事を思う自分にどうかと思わねぇわけじゃなかったが、過去の自分たちの関係や 昨年のヴァレンタイン時になかなか現れなかったルキアを鑑みれば、それも仕方ないだろっと 自分自身でツッコミがはいる。 「恋次、受け取るがいい♪」 機嫌の良過ぎるルキアに戸惑う俺を気にすることなく、いつも通りの偉そうな口調でルキアは チャッピー柄の箱を目の前に差し出した。 「なんなんだ一体・・・・?」 「知りたくば、開けるがいいだろう!  思いっきり、感謝するがいい!」 小さいくせに精一杯ふんぞり返るように俺の見下げようとするルキアに少しムカつくが、 差し出された箱を素直に受け取る。 開けるまでもなく、受け取った途端にふわりと甘い匂いが漂い、鼻孔がくすぐられた。 ルキアが今年もわざわざチョコレートを届けに来てくれたのだと気付いて、途端に自身の テンションが上がる。 我ながら、単純だと思うが、これだけルキアが嬉しそうなのだ、それだけでも嬉しいのに 予想外のプレゼントをされて 喜ばずにはいられない。 箱の紐を解いて、蓋を開ければ、綺麗なハート型のチョコレートケーキが入っていた。 「すっげぇな、ルキア。  とても美味そうだ。」 「そうだろう、私が作ったのだ!  美味いに決まっておろう!」 「?!」 ルキアが作ったにしては形の綺麗過ぎるケーキ―― 腕を組んで得意満面、どや顔をするルキアに俺は心底驚いた顔を向けてしまった。 途端にルキアから不機嫌そうな抗議の声が上がった。 「恋次、貴様なんだ!   その露骨に心底驚いた顔を向けおって!?  どういう意味だ、馬鹿!」 「イエ、ナンデモアリマセン。  モシヤ、今ルキアサンが作ったと仰いましたか?!」 出来上がりのそれは美しいチョコレートケーキと不器用な制作者をついつい見比べながら、 感情を極力抑えた所為で質問が棒読みになる。 「もう、無礼な貴様にはやらぬ!  返せ、馬鹿恋次!」 伸びてきた乱暴な小さな手を避けるために立ち上がって、箱を頭上高く持ち上げた。 「アホッ、これは俺がとっくに受け取ったんだから、今さら返すかよっ!」 「アホは貴様だろう?!  卑怯者!  早く返せ、ばか!」 顔を真っ赤に染めて、罵倒しながら両手で俺に組みついてくるルキアが可愛い! つい、からかって怒らせてしまうのは普段澄ましているコイツよりも感情をあらわに 向かってくるルキアが可愛くてしかたないからだ。 昔と同じ屈託のない顔で、しかもルキアから俺に絡んでくるのだ! この距離感の近さが嬉しくて堪らない!! ルキアの追撃から逃れて、隊首室の中を速足で歩きながら、チョコレートケーキを手に取る。 「ぁあっ、まさか貴様は手づかみで食べる気か、恋次?!」 手を伸ばして騒いでいるルキアを片手で軽く躱して、背中を向けるようにケーキに齧りついた。 ケーキは口の中はふんわりと柔らかな食感と独特の苦みとともに甘さが広がっていた―― 「すげぇうめえ・・・・・」 予想以上の美味しさに思わず足が止まった――追っていたルキアのぶつかった小さな衝撃を 背中に受ける。 「マジ美味い!」 続けざまに齧りついて、そう感嘆の声をあげれば、背中にしがみ付いたまま、 「本当にそう思うか?」わくわくと瞳を輝かせて見上げるルキアの瞳とあった―― すでに怒りはその顔にはない。 「あぁ、今まで食べた甘味の中で1,2位を争うほど美味い!」 さらにパクつきながら、執務室内応接用のソファに腰掛けて、追ってきていたルキアの 手を引いて膝に座らせた。 「うわっ、恋次?!  放せ、馬鹿恋次!!」 「何って、せっかくだ。  てめぇも一緒食うだろう?」 「いや、わざわざ貴様のために作ってきてやったのだ!  有り難く貴様が一人で食べるがいい!」 「??     美味いもんはさ、てめぇと分け合ったほうがより美味いんだ。  だから、一緒に食おうぜ、ほら!」 差し出したケーキに心底嫌そうな顔で「要らぬ。」と即断という常にない反応につい 厳しく詰問してしまった。 「何だよ、ルキア!  今さら俺の食べかけでは食えねぇとか、言う訳じゃねぇよな?!」 「むぅ・・・・。」 しばらく餓鬼みてぇに二人睨みあった。 だが、今回、珍しく先に折れたのはルキアのほうだった。 「わかった、わかった。  正直に言う・・・・言えばいいのだろう。  ――こんなことでそう怒る事ではないだろう、馬鹿!!  私は昨夜からすでに何個も作って試食しているのだ!  だから・・・、その・・ もう食べたくないのだ。」 「昨夜からって、おまえ・・・・ まさか寝てないのかよ?!」 「いや、焼き上がる間に少し寝た。」 不貞腐れたような、照れたような顔できまり悪そうにそっぽを向くルキアにいつものコイツだと やっとルキアらしさを実感する。 食べかけていたケーキを箱に戻す俺を怪訝な表情で見上げるルキアに安心させるように笑いかけた。 「すげぇ美味いケーキを手作りしてくれて、ありがとうな、ルキア。  本当に嬉しい。」 現れてからずっと、行動すべてがいつものルキアらしくない事に違和感を感じてずっと戸惑っていた。 さっきまでの上機嫌は睡眠不足のナチュラルハイだったのだと納得する――真相さえ分かって しまえば、本当に分かりやすいヤツだと思う。 いったいどれだけ時間と手間をかけてくれたのだろう――この不器用さとどんな事にでも一生懸命な ところがルキアなのだ 「なぁ、この世界で一番甘くて美味しいものを教えてやろうっか?」 「は? なにを急にーー」 この世界で一番甘くて美味しい小さな唇に口づける――深く吻れば、甘い吐息を漏らして、ますます 俺を夢中にさせる 媚薬のような甘やかに誘惑して、夢中にして虜にさせるのだ 深く熱情をこめて 貪るように求めて、満足しても――離れることで飢えが増す・・・・ お前にこの飢えが伝われば、この渇きが分かれば、「放せ、ばか!!」って真っ赤な顔で涙目に なったルキアから抗議されないだろう・・・ だが、その抗議する顔さえ可愛らしくて、余計に手の内から放せないのは知らなくていい―― 知れば、意地っ張りなルキアは怒ってへそを曲げてしまうだろうから。 HAPPY VALEANTINE’S DAY!!


  ありがとうございました。 あとがき Mar.18 〜  Apr.24 2011