季節が巡り また6月が あの日が 今年もくる。

今年は 例年よりもいつまでも肌寒く、雨が多い。 

寝付けないのは 湿度が多くて寝苦しいからじゃない。   

「お前の霊感体質のせいでおふくろが死んだ・・・・・・。  お前の所為で死んだ。」

雨音と共に声が何度も何度も俺を責め、苛んだ。

これは俺に与えられなかった罰
当然受ける筈だった罪の代償






母ちゃん、母ちゃん・・・

雨の中俺は何度も何度も泣き叫んだ・・・



俺の所為でおふくろが死んだ――


雨で荒れた川へ落ちそうになった女の子を

虚の疑似餌だと気づかずに助けようと不用意に俺が近寄ったから・・・

俺の代わりにおふくろが虚に殺された。














子供の頃、とても泣き虫だった俺を強くするためにオヤジが空手の道場に通わせた。

あの頃の俺にはあんな痛い思いをしてまで戦わなくちゃならない「空手」をする事の意味がわからなかった。

相手を打ち負かして勝つ事を面白いとも思えなくて組手の度に防戦一方の俺が勝つことはなかった。
防具と付けていても空手の突きや蹴りを腕や足で受けても痛いのにまともに腹で受けたり、足払いを受けて
道場の畳に叩き伏せられるとかなり痛かった。
「こんな痛い思いをしてまでなぜ強くならなければいけないのかわからない」って理不尽さもあって空手の
時間の最後の方は泣いてばかりいた。


それでも習い事を辞めると言わなかったのはこの送迎の時だけは俺がおふくろを独占出来たからだ。

いつもおふくろは幼い双子の妹たちの世話で追われていた。
だが、この送迎時は親父が子守していたから――俺は兄であることを意識して甘える事を無意識に遠慮して
いたのだと思う。

おふくろにいいところを、自分が弱虫じゃないってところを見せたい俺は泣き止んで迎えに来てくれた母に
いつも笑顔で駆け寄った。

本当は半泣きだったけれど、嬉しくて――
抱きとめられたおふくろの胸の中で涙をかき消していた。

「今週も頑張ったね、一護vv」

おふくろが優しく笑って抱きとめてくれたから、本当は嫌だった空手を続けていた。


そうして帰り道に俺はおふくろと手を繋いでいろんな話をした。
学校の事、友達の事、庭の花の事、通学路で見かける血だらけの可哀想な女の子の事、いつも傘を挿して
道の角に立っているおばあさんの事。

この頃の俺は生者と死者の区別がつかなかった。
過去に何度か友達に見たままを話して「そんな人はいないじゃないか、一護。何を言ってるんだよ?」って
すごく変な顔をされたのでできるだけクラスメートや先生、近所の人顔を憶えてそれ以外の人たちについては
見えても話をしないようにしていた。


おふくろだけは俺と同じ者が見えていた。
だから普段は誰にも言えない話を気兼ねなくたくさんの話をして、俺の目や頭がオカシイんじゃないって事を
確認した。
秘密を共有しているような嬉しさがあったのかもしれない。

おふくろと過ごせる時間がもっと欲しくてわざとゆっくり歩いたり、足を止めて見たものを指差しておふくろに
も同じものを見せた。
人だけじゃない、綺麗な夕焼けや星空、トンボや木々や草花・・・・。


あの女の子の事も母の気を惹きたくてきょろきょろと見回す中で見つけたのだ・・・


そんな俺が、あんな化物が見えちまっていた俺がおふくろを殺した!
家族からおふくろを奪った!

頭で自分の考えはどこか間違っているとわかっていても――



死んでから駆けつけた救急車を憎んだ

おふくろに死亡宣告した医者も憎んだ


俺を想って責めなかったと理解しながらも俺を責めない父を恨んだ

こんな馬鹿な俺を庇って死んだおふくろさえも憎んだ

何よりもおふくろを化物に遭遇させた自分を、
助けられなかった自分を憎んだ!


俺のことなんか放っておいてくれれば、よかったのに!
家族みんなが大好きだったおふくろに生きていて欲しかった!!

甘えたで愚かだった自分を呪い、責め、憎んだ――



おふくろが死んで俺の時間は半分止まった。

ごく親しい人以外の周りの人間への関心を持たないようにして、少しずつ生者と死者を慎重に
区別できるようにした。


「死神」を名乗るルキアから力を譲渡されるまで――

力を手に入れてやっと失っていた俺の半分の時間が動き出した







大好きだから 愛していたから 本当に大事だったから 喪失するとその本人も周りも自分さえ憎まずにいられなくなるほどの哀しみ 八つ当たりだと分かっていても・・・ どうして 失ってしまったのだろう? もっとなんとか助ける方法があったはず・・・ なぜ、もっと動けなかったのだろう? 自分の動けなさが 力の無さが口惜しい!! 繰り返される自問自答の中 何度も自分を責めて 何度も何度も泣いて・・・ 意識を失うようにやっと眠りにつける それなのに日常はそんな感情に関係なくて 自分は今までと変わらずにそこに存在していて 世界は回っていくのだ――今までどおり まるで何もなかったかのように・・・・ それがまた腹立たしかったりする