心残り 2 > 後日談: 事務仕事がひと段落着いたので、六番隊副隊長・阿散井恋次はルキアに会いに行こうと 霊圧で居所を探し…、いや確認していた。 予想どおりってか最近のお約束どおり、ルキアは四番帯の山田花太郎の救護室に居た。 山田はルキアの治癒鬼道での止血が早かったので命に別状はなかったが、完治するまでに 数日を要す重症を負っていた。 その間、暇を見つけてはルキアは毎日のように山田の見舞いに行っているようだった。 「毎日…かよ…」 ルキアの気持ちは分かるが、いや分かりたくねぇ――俺はルキアほど鈍くねぇ! 花太郎の仄かな気持ちも察しているだけに面白い訳がなく、そう独りごちた。 「花太郎、大分顔色が良くなって安心した。」 白い病室の中、持ってきてくれたお見舞いの花々よりもルキアさんの 深い紫の瞳と笑顔が色鮮やかに僕の目に映った。 「////ルキアさんのお陰です、ありがとうございました。」 「そのように来るたびに何度も礼を言うのは止めてくれ、花太郎。  今まで花太郎には何度も世話になっているのは私だ。  私こそが何度も礼を言わねばならぬ。  ありがとう、花太郎v」 「うっ・・あの、や、や、止めてください、ルキアさん!  僕はルキアさんのお陰で」「だ・か・ら!  何度も礼を言われるとお互い居心地が悪いであろう?  故にもう止そう、花太郎。」 「そうですね・・、ははは・・・」「ふふふ・・」 ルキアさんと笑い合える喜び――胸の奥が温かくくすぐったい。 僕は普段あまり見せられる事のない、ルキアさんのこんな悪戯っぽい笑顔がとても好きだ。 「よぉっ、ちょっといいか?  先日の件が結審したから報告に来た。」 そう言いながら病室の扉を開けて、阿散井恋次さんが入ってきた。 「ぉおっ、恋次!」 「わぁ、恋次さん!  わざわざありがとうございます!」 「あの二人の暴漢な、十一番隊の隊士だったって。  それで更木隊長の一声で通常の護廷十三隊の隊則の審判ではなく、隊内で処分されることになった。」 「ちょっと待て!  花太郎もうちの隊の者も十一番隊ではない。  他隊の隊士が斬られたというのにどうして隊内の処分なのだ?!」 「まぁ、最後まで聞けって。  確かに他隊の規律だったら、自隊の隊士を擁護してると思われて抗議されても仕方ねぇが、  十一番隊は特別だ!  斬魄刀を持たない隊士への一方的な殺傷は十一番隊じゃぁ、厳禁事項だから。  死んだ方がマシだってくらいの厳罰になるのは間違いねぇよ。」 「なんだかとても凄まじそうですね・・・・。」 「そうだな・・・。  奴らはきっと護廷十三隊の隊則で処分されたほうが楽だったと思うような目に遭うはずだ。」 「それはそうだろうが・・・むぅ・・・」 ルキアの隊の隊士は目を潰されたと言っていたから、今ひとつ納得いかねぇのかもしれない。 「更木隊長の申し出は、珍しく静かだったが、すげぇ怒りを内包していたらしくて、  さすがに浮竹隊長、卯ノ花隊長、総隊長も了承せざる負えなかったってさ。  隊長達が了承した以上、俺らに口出しの余地すらねぇよ。」 「浮竹隊長も?」 「あぁ。  お前は納得いかねぇみたいだが、俺はこれで正解だったと思うぜ。  十一番隊には十一番隊独自の矜持がある。  今回の事件を広く公示して、万が一にも他隊のヤツが何か刺激するような事を言う事があれば、  大きないざこざにしかならねぇのが目に見えているからな。」 そう言ってルキアの背中を軽く叩くと驚いたように俺を見上げた。 その視線に耐えられず、俺は話を変えた。 「と、ところで花太郎、傷の具合はどうだ?  たいやきを買って来たんだが、食えるよな?」 「え・・、あ・・あの・・・お陰様で大丈夫です。  あの・・ありがとうございます!  いただきます。」 「たい焼きって・・・、それは貴様の好物ではないか!」 「別にいいだろ!  てめぇの食えねぇ花よりずっと良いだろうーが!!」 そう言って恋次が病室の棚に置かれたままの花束を指差した。 「はっ?!  花太郎に花を持ってきて何が悪いというのだ?!」 「悪いとは言ってねぇだろうが!  人の話もまともに聞けねぇのかよ!」 「むぅ!」<どかっ> 反論できなくなったルキアさんが悔し紛れに恋次さんの向う脛を蹴っていた。 「痛ぇだろーが、この乱暴女!」 「なにがどう乱暴だ?!  嘘はよくないぞ、変眉副隊長殿!  この程度で痛がるほど貴様はヤワではあるまい。」 小柄なルキアさんがふふんと偉そうに腕を組んでどや顔で見上げると今度は恋次さんが 言葉に詰まっている。 言葉通りにヤワ(弱い)と主張するわけにもいかなかったからか、勝気な瞳で見上げる ルキアさんがとても可愛らしかったからなのか・・・ 僕には後者に思えた。 「んだと、こら!」 「馬鹿、やめろ!  髪に触れるな!」 ルキアさんと同じく言葉の応酬を諦めて、恋次さんは手を伸ばしてルキアさんの髪を 乱暴にかき乱していた。 朽木ルキアさんに触れる事が出来る数少ない人―― 「ははh・・・、相変わらず仲が良いですね・・・」 「「どこが?!」 「ひゃぁっ、ごめんなさい〜!!」 「「花太郎!?」」 思わず頭を抱えて身構えてしまった僕に、二人の仲の良さを表すように同時にまた 同じ言葉を返された。 誰ともなく笑い出した三人はそれからお茶を飲みながらたい焼きを食べた。 僕は二人の喧嘩するような会話が好きで苦手だった。 内容は互いの子供の喧嘩のような言い合いにその仲の良さにほのぼのとした気持ちになる と同時に疎外感のような言いようのない寂しさ―― 二人の『掛け合いの妙』に口出ししてはいけない不可侵を感じてしまう。 でも三人で笑い合った時、確かに僕の居場所もそこにあったから―― 僕は胸の奥で疼いたルキアさんへの想いに気づいてしまったけれど、この想いはきっと 言えないまま苦く胸に残るだろう


  ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。 あとがき Jun.17.2012〜Sep.06.2012