始解
11番隊内でしごかれて、実力が認められるようになっていても阿散井恋次にとって
ここ、尸魂界では子供の頃から戌吊で霊圧感知して探し慣れたルキアがとても見つける
事が困難な存在に変わっていた。
抑圧してなお巨大な霊圧・霊力を持つ隊長格や席官達がそこかしこに多く居たし、
殺気石できた建物が沢山立ち並んでいて探す霊絡を簡単に遮って断ち切ってしまう。
特にルキアは戌吊の頃から日常的に霊圧を消して必要以上に目立たないようにする
習慣が身に付いていたので下っ端な新人隊士達より霊圧も霊絡も小さく細かった。
自身の霊圧も強くなった所為もあり、ともすると探すよりも視認した方が早いほどに
近くに居なければ感知できなかった。
そこは瀞霊廷のはずれの人気のない山だったからだろうか・・・。
その日に限って恋次は鯉伏山に一人でいるルキアを霊圧を容易に感知することができた。
朽木ルキアが始解出来る様になったという噂は他隊・十一番隊の恋次の耳にも届いていた。
聞いて気持ちのいい噂ばかりではなかったけれどーー
その始解した斬魄刀は ”現在の尸魂界で最も美しい斬魄刀”と評されたほどに真っ白で
綺麗だと聞いては見てみたいと思わずにはいられない。
なによりずっと碌に話さえできない恋次にとってこれは話をするいい機会だった。
いつもルキアを警備している”朽木の蜘蛛”の霊圧も感じられなかった。
自慢げに披露するルキアの嬉しそうな笑顔を想像して、足は自然に駆けだしていた。
いきなり現れて吃驚させようと気配消して近づいてみれば、ルキアは大きな木の根元で
無用心にも転(うたた)寝をしていた。
周辺の草の踏み散らかされた痕や木の枝、幹の傷ついた様子から察するにどうやらここで
今まで誰かと稽古をしていたらしい。
ぐっすりと眠る小さなその姿に起こすのも躊躇いながらも、せっかく会いに来たんだ・・・と
迷いながらゆっくりと近づいていく。
ーーーと。
鋭い殺気を感じて大きく跳んで後退さる。
自分のいた場所に白くきらきらとした氷の楔のようなものが何本も突き刺さっていた。
ーー!!
いつの間に現れたのだろう、
まるで女みてぇに綺麗なツラをした男が、いや、細身のくそ餓鬼が俺からルキアを隠す
ように立ち塞がっていた。
一瞬朽木の家がルキアに護衛として付けているお庭番なのかとも思ったが、どう見ても
着てる装束が高級そうで優雅な立ち居振る舞いもまるで貴族のソレ。
だが、ヤツの纏う霊圧はルキアの魂魄にとても似ていてじりじりと胸が妬け焦げる。
「てめぇっ!
急になにしやがる?!」
「ふん・・・ 見かけ同様に言葉遣いも粗野で品がない。」
「んだと!」
「そなた ”阿散井恋次”であろう?」
素性のわからない相手からいきなり手に持った扇でびしりと指されて、自分の名前を
言い当てられて鼻白む。
「そうだよ!
だが、てめぇは誰だ?」
「動きの鈍さだけでなく察しの悪さも人並み以下だな。」
ひらりと近寄って来て、目の前で揶揄するように綺麗に微笑んで見せる。
恋次は腹立ち紛れに何の前置きも無くいきなり刀を抜いて横に薙ぐが、ひらりと飛んで
躱(かわ)されてしまう。
「はっ、てめ、はっきり言っていいんだぜ。
俺と殺リ合いたいって。
11番隊の阿散井恋次
俺の、この名前を憶えておけ!」
言うと同時に鋭く踏み込んで斬りつけるが、俺の一閃をさらりと軽く飛んで躱して
嬉しそうな笑みを浮かべた。
「気の短さも噂以上だ。」
「うっせーよ!」
飛んで上段から斬りかかる俺をひらりと左右に何度も躱してみせる。
余裕を見せるその優雅な身のこなしと綺麗な顔に浮かぶ薄笑いが恋次のイライラを
募らせた。
かなりムキになって何度も斬りかかり、終いには息が上がり肩で息をする恋次を冷ややかな
視線で流し見て
「もうよい。
貴様の実力は分かったし、飽いた。」
そう一方的に終わりを告げて開いた扇で顔を隠すと気怠そうに欠伸をした。
ーー ちきしょ・・! とことん馬鹿にしやがって!
「んだと、こら!
てめぇ、勝手ばかり吐かしやがって・・・・」
「てめぇではない。
我が名は袖白雪。
そこな娘の斬魄刀だ。」
「はぁっ?!」
思わず間抜けな反応をしてしまった。
始解して間もないルキアがあっという間に斬魄刀の具象化まで至ったというのか?!
ーーそんな馬鹿な話聞いたことねぇ!
疑惑のままにソイツを凝視する。
だいたいルキアの始解自体が 死神になってずいぶん時間が経ってからだからかなり
遅いほうだ。
能力のあるヤツ等の半数が統学院の在学時に始解出来る様になるくらいだ。
しかも未だに席官の末席ですらなれないルキアが具現化にまで至っているなんて
どう考えたってありえねぇ。
「しかも疑り深い・・・・。
ふふふ・・・
まぁ、信じられぬのもあたり前か・・・。
まだ始解したばかり故、本人の意識の無い時にしか具現化できぬが、この娘。
我が血族に近いのだ。
ちょうど良く貴様が現れてくれたので言っておこう。
ルキアは今後、常に我と共にあるゆえ我より弱い貴様は必要ない。
今後一切の関わり合いは無用に願おう。」
貴様はこの娘を惑わせる、我との対話を邪魔する迷惑な存在――
ヤツの言葉に驚いている俺を見下すような視線でそう言うだけ言うと袖白雪は
忽然と姿を消してしまった。
その代わりに眠るルキアの腕の中に斬魄刀が現れていた。
こちらに向かってくる誰かの気配に俺はその場を慌てて離れた。
今は誰とも何も話したくなかった。
それほどに混乱していた。
――弱い貴様は必要ない・・・・
言い捨てられた言葉に胸が鋭く抉られる。
強くなったと思い上がっていた・・・・
まだまだ、もっと強くならなければ、アイツに会いに行く資格なんかねぇ・・・
もっともっと・・・
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
この頃って、二人それぞれに本当に苦しく辛い時代だったのではないかな・・・と。
11番隊で斑目一角にシゴかれて、少し実力が付いたと思っていたところをルキアの
斬魂刀に袖白雪に遣り込められて――
恋次がより一層強くなる為に努力していたらいい。
そんな妄想劇場でした。
昨年の2月にあまりの救いの無さに途中で挫折していた話をサルベージしちゃいました。
あとがき
Oct.24〜Dec.25