告白 7 ・ 「・・・・・ルキア。  おまえさ、俺をどう思ってる?」 目の前で桜の花びらが盛大に舞い落ちるのを、昼食後にまったりと二人で見ていた。 のに―― 隣に座って同じように黙って桜を見上げていた筈の恋次に何の前置きもなくいきなり そう問われて、面食らう。 「?」 一瞬、その問われた漠然とした言葉の意味が分からず、何か聞き逃してしまったかと 隣のヤツを見上げれば、片膝立てて足を伸ばして桜を見上げていた姿勢のそのままに 視線だけがついと流されて、燃えるような緋の瞳が私を捉えた。 「何を戯けた事を・・・」 いつものように醒めた視線と冷やかな態度で返してしまうにはあまりに真剣な恋次の 視線に「どう思う」より先に「なぜ、急にそんな事を知りたがるか?」の理由を考えた。 そういえば、今日は会った時から無口で様子がおかしかったと思いはしたが、その理由は 全く見当がつかず、結局、口から出たのは逃げ口上だった。 「何を今さら――」 そんな私の言いかけた回答に瞬時に片眉が上がり、ヤツの不満が露わになる。 「答えろ、ルキア!  同情か!?  それとも――」 「貴様のその問いかけの意味がわからぬ!!」 恋次の不満な様子に思わず、自身が憤慨して熱くなって返してしまった。 次の瞬間――勢い良く伸びた腕に絡め捕られて、感情ごと胸板に押しつけられるように 強く抱きしめられていた。 双極で同じように胸板に押しつけられて苦しかった事を思い出す ――だが、それ以上に苦しげに声を絞り出して耳元で問う恋次に戸惑う・・・。 「てめぇが俺と付き合う決めたのは助けた俺に恩義を感じているからか?」 助けた恩義とは何だ? なぜ、恋次は付き合う理由など問うのか? ――今さら・・・・ 子供の頃から恋次は仲間内の誰よりも口は悪いが情が深く篤い男だった。 私に向ける愛情が今までは抑えられていただけで本当は根強く深く熱く激しいのだと 思い知らされたのは最近の事―― そして、その激しい想いの分だけ私の気持ちを見失って、消化不良のように自家中毒を 起こすらしい――これは乱菊さんの分析で、正直私にはよくわからない。 ただ、前回は謂われのない嫉妬でその時の事を乱菊さんに相談したところ、 そう回答されたのだ・・・。 そもそも、いつも私を揶揄い馬鹿にして、怒らせてばかりいる幼馴染みが私を何よりも 大事に想ってくれているなんて思いもしなかった。 単純馬鹿のくせに何事も器用にこなす恋次が意外にも愛情を言葉で伝えられない不器用な 男だったとは私に気付ける訳がないだろう―― 統学院では周囲の者との軋轢と恋次に追いつけない、置いて行かれてばかりの自分の 気持ちで精一杯で――養子に行く事を勧めた恋次の気持ちなど全く分からなかった。 あの時は、手を振り解いた自分が情けなくて、それを許した恋次が哀しかった。 恋次は もう私を家族としても必要ではなくなったと思いこんでしまった―― だから、恋次が瀞霊廷の護廷十三隊・副隊長という要職・地位や名誉や自身の命さえ、 擲って助けに来てくれるとは思いもしなかった。 命を賭けて、兄様と戦ってまで私を助けようとして瀕死の傷を負い―― 無事に生きて、処刑場まで会いに来てくれただけで本当に嬉しかった・・・ 全身傷だらけにも関わらず、最期まで諦めずに藍染から護ろうとしてくれた・・・ 私に同じ事ができただろうか―― あの後、私はそう何度も自問した 今の私なら、絶対にできる! だが、あの当時の私は周囲の視線に怯え、兄様を恐れ、朽木という家名に押し潰されそう だったのだ――そんな私に 例え相手が恋次だったとしても死刑を宣告された罪人を命懸けで全てを捨てて、助ける 選択ができたとは到底思えなかった。 出来たとしても、それは誰かに泣いて縋る事くらいではないのか―― だから、私に恋次への恩義や感謝、後ろめたさといった感情が全くないと言えば、 それは嘘になる。 だが、あの時に恋次は私にとって掛けがえのない者だと魂に思い知らされた。 あの双極に渡るつり橋で感じた瀕死の恋次の霊圧は今でも夢で魘されるほど恐かったし、 目の前で、藍染に一護とともに斬り倒された時の恐怖は今思い出しても心臓が 軋むように痛い。 恋次のいない世界など考えられない―― 頑丈な男で本当に良かった。 奔るよう回る走馬灯のような思い出にうっかり流されてしまったが、息苦しさも限界―― あの時と同じように顎に鉄拳を喰らわした。  どかっ  「ぶふぉうっ!!」 「戯け、私を窒息死させる気かーっ?!」 「はぁ、はぁ・・、もうちょっとでこの世から消えるとこだったわ・・・、馬鹿恋次・・」 「悪りぃ――」 手を伸ばして、今度は私が恋次の口を塞いで、続く言葉を止めた。 大きく息を吸い込んで呼吸を整えて、またゆっくりと息を吐き出した。 そうしてなんとか自分自身を落ちつかせた――これはとても大事な事。 驚きで鋭い切れ長の釣り上がった眼が見開かれ、そんな私を見下ろしていた。 視線を捉えたまま、両手を恋次の首に掛けてからゆっくりと回して、顔を間近に寄せた。 「恋次、私は誰だ?」 「・・・・何を言って・・・」 「答えろ、恋次。  私は誰だ?」 「・・・・ルキア、朽木ルキアだ・・・」 「では、貴様にとって朽木ルキアとは何だ?  誰よりも貴様こそが私の事を知っているのではないか?」 「・・・・・・・ルキア・・・」 「貴様の知る私は命懸けで助けたという恩義で付き合いを決める者なのか?」 「あ・・・あぁ・・?  いや、てめぇはそんな単純な女じゃねぇよ・・・・  冷静に理論的分析する癖に自分の直感や感覚を信じてる・・・  だいたいてめぇは理屈で誰とでも付き合えるような器用な性格じゃねぇ・・・・」 本当の事を言われて、むぅと少し頬を膨らませて唇を尖らせて不機嫌を伝える私を 見下ろす恋次の顔が少し綻んで、さっきまでの刺々しさが全て消えた。 「・・・・だいたい、今さらそんな事を問う事に何の意味があるのだ!  もし、仮に――仮にだぞ。  私の気持ちが恩義や感謝だったら、貴様は私と別れるとでも言うのか!?  そんな私など要らなくなってしまうとでも言うのか?!」 「アホッぬかせ!  んな事出来る訳ねぇだろ!!」 「阿呆は貴様だろう、恋次!!  っだいたい////////、  私がこんな風に自分を預けられるのは貴様だけだ・・、馬鹿っ//////」 一気に言い放って、さっと黒い刺青のある首にしがみついた。 頬や顔だけでなく、耳まで熱を持ったように火照っていた――たわけ!! こんな恥ずかしい事まで言わせおって、馬鹿恋次!! きっと私は恋次の髪のように真っ赤な顔をしているだろう!! そんな私を・・・ ゆっくりと太い腕が包むように抱きしめる。 互いの鼓動が交り合う音だけが響く・・・・ 穏やかに護るように包まれる霊圧の柔らかさが心地よい 恋次が一緒にいる私を甘やかすように優しい霊圧を放つ―― これは子供の頃から、二人の時に私が何かに怯え、悲しんでいる時に包んでくれたもの すまない――私こそが大たわけだったのやもしらぬ・・・・ 「・・・・くくっ・・ ふ・・・ははっ・・・・ 」 いきなり・・・・恋次が笑い出した。 いつもの悪態の応酬に明るさを取り戻したのだろう。 「確かに馬鹿は俺だ、ルキア♪」 朗らかに笑ってそう言った恋次に少し腹がたって、つい余計な一言を言ってしまった。 「双極で助けてくれた事に恩義を感じて付き合うというのなら、兄様や一護、井上、  チャドや石田、浦原とも付き合わねばなら――」「てめ、させるかっ!!」 言うべきではなかった言葉は途中で遮られた――口付けで塞がれてしまった まるで噛みつくような激しさと己が熱情をぶつけるような荒々しい口吻・・・ ――なんて沸点が低いのか!! そう心中で抗議しながら、また機嫌を損ねてしまった責任を感じて、激しく求められる ままに全て委ねた。 口腔深く求められて、交換される霊子に愛されている幸せを享受して、実感する――


  ありがとうございました。 あとがき Apr,24 〜