黒い紐・赤い紐 2
*黒い紐が結ばれたなら、恋次が昼休みにその場所に行けなくなったという合図
*赤い紐が結ばれたなら、私が昼休みにその場所に行けなくなったという合図
次の日、約束どおり恋次は 髪を結ぶための赤い紐を十本も用意して私に
渡してくれた。
結局 この合図は 恋次が やはり急に組の授業が変わった時に何度か
使って役に立った。
折角恋次が十本も用意してくれた赤い紐をルキアが使ったのは 一度きり。
しかもあの馬鹿はそれでもその場所に行き、昼食を一人食べ、昼寝をしたのだと
言っていた。
「ほ〜〜 貴様は 赤い紐を見たのに、わざわざあんなところまで
行ったというのか?」
「だってよぉ〜 もしかしたら、(ルキアが)早く終わって来るかも
しれないだろ。」
「私の記憶では あれは行けない時のためのもので遅れる時の
合図ではなかったはずだ!
しかも貴様自身が 決めた合図だ。
馬鹿だから、忘れてしまったのか?」
「てめ! ちきしょっ!!! そんなわけ無いだろ!!
・・・いいだろ、べつに!
俺はあの場所を気に入っているから、そこに言って飯食って、
昼寝したんだよ!」
「はいはい、じゃ、そういうことにしておいてやろう。
ーーふ〜っ。」
「なんかムカつく・・・!!
てめ! 覚えてろよ。
馬鹿にしやがって。
ぜってぇ 俺のが先に死神に なってやるからな!!
おめえは いつまでも院生でいろ!!」
そう言って 恋次は 私の頭を強く撫でつけ、髪をくしゃくしゃにかき混ぜた。
(口で勝てなくなると 私の髪をくしゃくしゃにして私にやり返すのだ。)
そんな懐かしい日々が昨日のことのように 思い出された。
(そうだ、一本しか使っていない。
あの時の 紐は どうしたのだろう。)
そんな感慨にふけりながら、午後の書類の整理をしていたら、本来この仕事を
するべき二人が ぎゃあぎゃあと言い合いをしながらルキアのいる隊舎内執務室
『い乃二』に戻ってきた。
ルキアは 噂話に自分自身が話題になることが多いので噂や世事にあまり関心が
持てずにいた。
私に仕事を任せたまま 小椿仙太郎と虎徹清音が 何を調べているのか。
また、最近隊士達が何をムキになってワイワイと話合っているのか全く知らなかった。
けれど、今日は小椿仙太郎と虎徹清音が言い合う中に
「・・・十一番隊の赤い髪の・・・」とか
「・・・阿散井とかいう・・・・」なんて単語を
耳にしては思わず口を挟まずにはいられなかった。
「あの〜、小椿殿、清音殿 お話し合い中 申し訳ありせん。
十一番隊の者と何か あったのですか?」
「「・・・・!!!! あんたは/おまえは どう思う?」」
「はぁ・・、その、何のことでしょう?」
「だからさ、昨日、地図の空き地を見張ってた班から十一番隊の席官が
昼寝現れたって報告があってさ。
他隊のヤツだけど、もしかしたら、そいつが今回の紐の犯人、または
その関係者かも・・って
今までずっとそいつのこと調べてたんだけどさ・・・
先週はずっと現世に行ってたんだって・・・。
朽木もさ、やっぱりそいつは 無関係だと思う?
な〜んか怪しいと思うんだけどさ、この口クサゴリラが・・・」
「今日、阿散井殿も言ってたじゃぁないか。
もう三ヶ月以上も前からあそこで昼寝に来てたって・・・
だいたい今回の事に他隊の者が関係あるわけないだろ!!
この馬鹿女!!」
「んだぁと、こら!
やるのかこの足クサビビリ男!
あの赤毛の十一番隊のヤツなんかに話しかけるのに
びびってたくせに。」
「うっせえ!
テメーだって 話しかけられずに俺様が来るのを
待ってたくせによ。
・・・・そんな事より 犯人探しどうするかって事の方が
問題だろう!?
あの阿散井殿が三週間現世に行ってる間にこのフザケタ騒動に
決着つけるって約束したからな。」
「そこもムカツク!!!
[また、自分 昼寝に来まスっから
その時には無事解決してる事を願ってますよ]って
なんなんだ?!
あの赤毛変刺青男!!!
あんなところで昼寝なんかして、紛らわしい!!!」
「・・・・・あの すみません。
最初から、ご説明いただいてもよろしいでしょうか?」
「「−−−−えー朽木、こんなに隊中騒ぎになっているのに
知らないとか????」」
「//////// 申し訳ありません。」
「「ま、お前/あんた らしいっちゃあ らしいな。」」
また、 ハモられた。
ルキアは今回の紐の騒動について 二人から揉めながら、最初からの
説明を受けた。
三週間後。
恋次は 現世での任務を終えて、午前中にさっさと報告書を書き上げて、
昼休みを寝て過ごすため、あの小高い丘に来ていた。
「・・・やっぱり、忘れちまってるよな・・・・。」
(ルキアと会って話をしたい。)
ずっと胸にあった思い。
会っていろいろ聞きたかった。
話をしたかった。
せめて 幸せなのかって確認したかった・・・・。
真央霊術院で別れてから、
あの日 恋次の手を離して走り去ってから
ルキアの姿は恋次の世界から忽然と消えた。
ルキアは 恋次に何も告げずに荷物さえ人任せにしていなくなった。
もう一度話をしようと思っていた恋次は 突然の出来事に戸惑いと怒りと
自己嫌悪に苛まれた。
(何故あの時 俺はすぐに追いかけなかったのだろう!!?
すぐに追いかけていれば、ルキアがどうしたかったのか、
俺にどうして欲しかったのか
俺が遮ってしまったルキアの想いを聞けたかもしれない。
養子に行くにしても、
行く前に何故 俺に一言の挨拶もないのだろう?
今まで一緒に居た俺に!?
ありえねぇ!!
まさか、無理矢理 連れて行かれたのだろうか?!
だいたい 貴族なんて信用できるもなのか??!
俺はそんな連中のところへルキアに行くように薦めちまったのか!
納得して送り出した筈なのに、俺は酷く混乱した・・・・・・)
あの時恋次を邪魔者扱いした朽木家の執事頭・清家信恒が ルキアの手紙を
持って来なければ、きっと恋次は 朽木家に乗り込んでルキアの無事を
確認しようとしていただろう。
この時、無謀な行動をしていたら、今ここに生きてはいられなかっただろう。
(きっと頑張って卒業して 死神になりさえすれば、会って話せる。)
そんな自分の考えが あまりに甘かった事に呆れる。
平の死神など使い捨ても同然。
地位や価値などありはしない。
席官、いや、隊長、副隊長クラスにならなければ、四代貴族朽木家令嬢に
話しかけるなどできはしない。
事実、朝晩、隊舎への往復する際にルキアの前後左右に付き従う朽木家の
護衛達は 他隊の隊長・副隊長や、十三番隊の席官クラスが近付いて来た時、
すれ違う時にしか、ルキアの前を空けることなどしない。
「・・・・ この霊圧・・・・。」
大きな木の下まで走って来た恋次は 見上げて、話しかける。
「ルキア、居るんだろう?
気配を消して姿を隠してねぇで降りて来いよ。」
「・・・・恋次 貴様 どうして、こんなことをした・・・・?
こんな騒ぎになるような・・・・」
「しょうがないだろ。
こうでもしなきゃ お前ぇと話ができなかったんだからよ。
・・・頼む・・降りて顔を見せてくれ・・・。
どうしても話がしたい。
聞きたいことが・・・・」
そう言って、大きく手を広げた。
今まで、ルキアに向けた事のない苦渋の表情で・・・懇願した。
すいません。
こんなところで・・・・。
かなり分かり難いと思いますが、ここまで回りくどく
しないとルキアには連絡が取れないという事で
ご理解頂きたいです。
朽木家のお嬢への伝言なんて、誰も引き受けてはくれない。
朽木家の使用人達も堅そうです。
11/04/2007
黒い紐・赤い紐
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